・・・45歳の若さで逝った翻訳家で詩人の四条直美が、娘のために遺した4巻のテープ。そこに語られていたのは、大阪万博のホステスとして働いていた23歳の直美と、外交官としての将来を嘱望される理想の恋人・臼井礼との燃えるような恋物語だった。「もし、あのとき、あの人との人生を選んでいたら・・・・・・」。失われたものはあまりにも大きい。愛の切なさと歓びが心にしみるラブストーリー。・・・ですって。(新潮文庫・裏表紙の作品紹介文より)
私が古本屋でこの本を手に取って、読んでみようと思ったのは、ひとえにそのタイトルに惹かれたからです。このタイトル「水曜の朝、午前三時」とは、ちょっと前の音楽好きにとっては、忘れられないタイトルですよね。そう、60年代に一世を風靡した、サイモン&ガーファンクルのデビューアルバムのタイトルと同じなのです。そのことを知っている者は、どうしてもS&Gのあの繊細な世界観がこの作品の中にも重ねられていると期待してしまいますよね。私も、そのような期待を持って、この本を手に取り、買ってしまったのです。
で、読後の感想なのですが、まず初めに、S&Gの世界観とは少し違っていました。いえ、同じような空気は確かに流れているのですが、直接的にそれを連想させるものは特にありませんでした。どちらかといえば、以前読んでここでも紹介させていただきました高橋治氏の「風の盆恋歌」に似たような感じでしょうか。ぐっと日本的になりますが。
主な舞台は1970年初めの日本。国中が大阪で行われました「万国博覧会」に浮かれていた時代であります。大阪生まれ大阪育ちの私、その当時はまだ幼くて、詳しいことはよくわかりませんでしたが、このような状況であったのだなあと、本筋とはちょっと違うところに感心したりしておりました。
そのような、日本中が熱に浮かされたような状況で始まった「恋愛」ですが、事態は思わぬ方向に進んでいきます。今ではなかなか扱いにくいようなテーマなのですが、読んでる私としては「そうきたか~」といった感じでした。
この作品、万博を知らない世代、もしくは「臼井さん」の抱える問題がよくわからない世代の方が読んだらどんなふうに感じるのだろうと、そこのところにちょっとした疑念を抱かないではないのですが、世代を超えて、特に恋愛においてはきっと誰の心にも「あの時こうしていたら・・・」などという思いは残るものだと思いますから、そういう点で、きっと誰の共感をも得られる作品なのではないかと思います。まあ、ちょっと湿り気味な、切ない作品ですわ。
先ほども書きましたが、大阪万博を多少なりとも知っている私、それから京都(臼井さんの住んでいるところが京都なのです)にも縁が深い私としては、知っているところが何度も出てきて、そのあたりも興味深く読むことができました。正直、ちょっと古め(失礼、でも平成13年に発表されたのですね)の小説かと思いますが、逆に安心して読むことができました。まさにオーソドックスな恋愛小説といったところでしょうか。
私の評価:☆☆☆☆(本当は、3.5くらい。5つが満点です)
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